カスハラとは?2025年6月の法改正で何が変わったか解説

2026.09.06 ⏱ 11min
カスハラとは?2025年6月の法改正で何が変わったか解説

「お客様は神様です」——そんな言葉が当たり前だった時代は、もう終わりに近づいています。

接客の現場で働いていると、理不尽なクレームや暴言に出くわすことがありますよね。「こんなに怒鳴られるのは仕方ない?」「我慢するしかないの?」と感じている方も多いのではないでしょうか。

でも、2025年6月に重要な法改正が行われました。カスタマーハラスメント(カスハラ)対策が、ついに法律で企業の義務となったのです。

この記事では、カスハラの定義から法改正の内容、そして具体的に何が変わるのかを、わかりやすく解説します。


カスハラとは?2025年6月の法改正で何が変わった?

カスハラ(カスタマーハラスメント)とは、顧客や取引先などから従業員に対して行われる、社会通念上許容される範囲を超えた言動によって、就業環境が害される行為です。2025年6月4日、改正労働施策総合推進法が国会で可決・成立し、カスハラ対策が事業主の義務となりました。2026年10月1日の施行以降、労働者が1人でもいる事業主は、相談窓口の整備や対応方針の明確化などの措置を講じなければなりません。


オコリン

カスハラという言葉、最近よく聞きますが……法律で規制された、というのはどういうことなんでしょう?

博士

これまでは「対策した方がいいですよ」という努力義務レベルだったんじゃ。それが2025年の法改正で、企業が対策を講じることが法的な「義務」になったんじゃよ。

オコリン

じゃあ、今まで泣き寝入りしていた接客業の方たちが、ちゃんと守られるようになるということですか?

博士

そういうことじゃ。「お客様だから何でも許される」時代は、法律の面でも終わりを迎えたわけじゃな。


この記事を読むとわかること
  • カスハラの正式な定義と具体的な行為例
  • 2025年6月の法改正で何が決まったのか
  • 企業が2026年10月までに対応すべき義務の内容
  • 東京都が全国に先駆けて作った条例のポイント
  • カスハラかどうかの判断基準

目次

カスハラとは?法律上の定義

カスハラとは?法律上の定義

カスハラとは、カスタマーハラスメントの略称です。

2025年6月に成立した改正法では、以下のように定義されています。

職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の事業主の行う事業に関係を有する者の言動であって、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより当該労働者の就業環境が害されること

少し難しい表現ですが、ポイントはこの3つです。

  1. 誰が行うか:顧客・取引先・施設利用者など、外部の人
  2. どんな言動か:社会通念上許容される範囲を超えた言動
  3. どんな影響か:労働者の就業環境が害される

つまり、「お客さんからの理不尽な行為によって、働く環境が壊される」こと全般を指します。


カスハラの具体的な行為例

カスハラの具体的な行為例

「どこからがカスハラ?」という疑問は多いですよね。厚生労働省や東京都の指針では、以下のような行為が例として挙げられています。

身体的・言語的な攻撃

  • 大声で怒鳴る、罵倒する
  • 物を投げる、叩く
  • 「死ね」「クビにしろ」などの脅迫的な発言

不当な要求

  • 欠陥がないのに商品の交換を執拗に求める
  • 既に提供したサービスをやり直させようとする
  • 関係のない私物の故障まで賠償を求める

拘束行為

  • 長時間の居座り・電話
  • SNSやレビューでの誹謗中傷
  • 土下座の強要

なお、同じ「じわじわ粘着してくる」タイプでも、相手が客ではなく職場の人の場合は職場のネチネチ怒る人に限界…心をすり減らさない現実的な対処法が近い話題です。

オコリン

じゃあ「ちょっとクレームを言う」くらいは、カスハラではないんですよね?

博士

正当な苦情やクレームはカスハラではないんじゃよ。「怒る」と「叱る」「注意する」の線引きはこちらで整理しておるぞい。商品に本当に欠陥があって返品を求めるとか、サービスの問題点を指摘するのは、当然の権利じゃ。問題になるのは「社会通念上許容される範囲を超えた」言動なんじゃ。


2025年6月の法改正:何が決まったのか

2025年6月の法改正:何が決まったのか

2025年6月4日、参議院本会議で改正労働施策総合推進法が可決・成立しました。なお、法改正を待たずに今の現場でできる自衛策は職場での「理不尽な怒り」を受けた時のメンタル防御術にまとめています。

法改正の核心:「義務化」

これまで、カスハラ対策は企業の努力義務(「やった方がいいですよ」レベル)でした。今回の法改正で、事業主が具体的な対策を講じる法的義務(雇用管理上の措置義務)となりました。

これは、パワハラ・セクハラ対策と同じレベルの義務です。

施行は2026年10月1日から

法律自体は2025年6月に成立しましたが、実際に義務が発生するのは2026年10月1日からです。企業にとっては、それまでに対策を整える猶予期間があります。

対象は全事業主

「中小企業は関係ない」というわけではありません。労働者が1人でもいれば対象です。個人経営のお店も含まれます。


企業が義務として求められる対策

企業が義務として求められる対策

厚生労働省は2026年2月26日に指針(令和8年厚生労働省告示第51号)を公布し、企業が講じるべき措置を具体化しました。詳細は厚生労働省「令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について」にまとまっています。

義務化される主な対策

企業が講じる措置(主なもの)具体的にやること
1. 方針の明確化と周知カスハラに毅然と対応する方針を定め、従業員と顧客の両方に周知する
2. 相談窓口の整備従業員がカスハラ被害を相談できる体制を整える。既存のハラスメント窓口と兼用も可能
3. 対応マニュアルの作成「このような言動があった場合、こう対応する」という手順を文書化する
4. 従業員への研修カスハラの認識と適切な対応方法について教育を行う
5. 被害を受けた従業員へのケア担当者の変更、メンタルヘルスケア、場合によっては法的措置の検討

違反した場合は?

措置義務に違反した事業主は、報告徴求命令・助言・指導・勧告・公表の対象となります。罰則(罰金等)はありませんが、企業名が公表されるリスクがあります。

オコリン

「義務になっても罰則がないならやらなくてもいい」と考える企業もありそうですね……。

博士

確かに罰金はないんじゃ。でも企業名の公表はレピュテーションリスクになる。それ以上に、カスハラ対策をしていない職場は従業員が離れる時代になってきておるんじゃよ。求職者も「この会社は従業員を守ってくれるか」を見ておるからのう。


東京都の条例:全国に先駆けて動いた

東京都の条例:全国に先駆けて動いた

実は、国の法改正より先に東京都が動いていました。

東京都は2025年4月1日からカスタマー・ハラスメント防止条例を施行。業種を問わない全国初のカスハラ防止条例です。

東京都条例のポイント

  • 禁止規定あり:「何人も、カスタマーハラスメントを行ってはならない」と明記
  • 事業者の責務:事業者はカスハラ防止のための措置を行うよう努める
  • 罰則なし:ただし、カスハラの禁止を法的に宣言した意義は大きい

この条例は、国の法整備に先立って「カスハラは許されない」というメッセージを社会に発信したものです。


データで見るカスハラの実態

2025年の調査では、クレーム対応の経験がある会社員1,030人のうち72.1%が、消費者からのカスハラを経験しているという結果が出ています(SP Network調べ)。

また、UAゼンセンの調査(2024年)では、流通・サービス系の組合員の46.8%が、直近2年以内に迷惑行為の被害にあったと報告されています。数字に開きがあるのは、前者が「クレーム対応の担当者」に絞った調査であるのに対し、後者は業種全体を対象にしているためです。いずれにせよ、接客の現場で珍しい出来事ではないことがわかります。


オコリン

クレーム対応をしている人の7割……。もう、珍しいことではないんですね。

博士

そこが今回の法改正の出発点じゃ。これだけの人数が経験しておるなら、もはや個人の我慢で片づける話ではない。企業の側が仕組みで守る——法律がそう決めたわけじゃな。

よくある質問(Q&A)

Q:正当なクレームとカスハラの違いは?

A:サービスや商品の問題を指摘する正当なクレームはカスハラではありません。「言動が社会通念上許容される範囲を超えているか」が判断基準です。怒鳴る・脅す・関係のない要求を繰り返すなどの行為がカスハラに当たります。

Q:2026年10月前は企業が対策しなくてもいいの?

A:法的義務の発生は2026年10月からですが、今すぐ準備を始めることが推奨されています。相談窓口やマニュアルの整備には時間がかかるため、早めの対応が重要です。

Q:個人のお客さんがカスハラをした場合、企業は法的措置を取れる?

A:はい。カスハラ行為が不法行為(暴行・脅迫・名誉毀損など)に該当する場合、企業が法的措置(警告・出入り禁止・民事訴訟)を取ることができます。従業員を守るため、企業側も毅然とした対応が求められます。

Q:接客業以外の企業にも関係ある?

A:関係あります。「顧客・取引先・施設利用者」が対象なので、BtoBビジネスや取引先との関係でも発生しうるカスハラが対象です。


まとめ:カスハラは「我慢するもの」ではなくなった

オコリン

結局、接客業の方にとって何が一番変わるんですか?

博士

一番大きいのは「企業がスタッフを守る義務を負った」という点じゃ。以前は「お客様だから我慢して」で終わっていたことが、「企業が対策を講じなければならない」という構造に変わったんじゃよ。

オコリン

働く人の立場が、少し強くなったということですね。

博士

そうじゃ。法律は社会の認識を変える力がある。カスハラを「仕方ない」と受け入れる時代から、「許されない行為」として対処する時代へ、少しずつ変わりつつあるんじゃよ。


今日のポイントをまとめます。

カスハラの基本:

  • 顧客等から従業員への、社会通念上許容される範囲を超えた言動
  • 正当なクレームとは別物。「超えた」言動がカスハラ

2025年6月の法改正:

  • 改正労働施策総合推進法が可決・成立
  • カスハラ対策が事業主の「義務」に格上げ
  • 施行は2026年10月1日

企業に求められること(2026年10月〜):

  • ✅ 方針の明確化と周知
  • ✅ 相談窓口の整備
  • ✅ 対応マニュアルの作成
  • ✅ 従業員研修
  • ✅ 被害従業員へのケア

カスハラは、怒りという感情が暴走した結果として起きる行為でもあります。「感情のコントロール」という視点からも、社会全体でこの問題を考えていく必要があるでしょう。

もしあなたが接客の現場で理不尽な経験をしているなら、それはあなたのせいではありません。法律も、少しずつあなたの側に変わりはじめています。


参考文献